しつけ。

放課後のテニスコート。
人数の多い氷帝学園のテニス部ではコートを使用できる優先順位が決まっていて、一年などはコートに入ることすらできない。
今は準備運動も終わったレギュラー陣が集まって、それぞれに練習を始めたところだった。

「ふっ……俺様の美技に酔いな!」
「跡部ー、得意なもんばっかやっとったって練習にならんやろ〜?」
「俺様に苦手なものがあると思っているのか?」
「…………へいへい。」

片方のコートでこんな会話が繰り広げられていると思えば、もう片方ではノーコン克服のためにひたすらサーブを打つ姿が見られる。

「し…宍戸さんは練習いいんですか……??」
「いーから。次はもっとよく狙えよ。」

ぜぇはぁと肩で息をつく長太郎に、ぽいっ、とボールが投げて渡された。
ふぅ、と大きく深呼吸して、ボールを見据える。

「一……球………」

相手が相手だけに張り切っているのか、長太郎はいつにない集中力だ。
…………周りの音は聞こえていない。

「宍戸〜ちょっとボール分けて。」
「あ?」
「………入・魂!!」

バコッ!

「痛っ……てぇ!」
「あぁぁっ!?宍戸さん!だ…大丈夫ですか?」

長太郎のサーブはタイミング良く振り返った宍戸の後ろ頭を直撃した。

「長太郎〜〜〜俺が良いって言うまで打つんじゃねぇよバカ!!」
「す…すみませ〜ん………(涙)」
「ったく……次やったら相手変えるからな。」
「えぇっ!?」

涙目の訴えも『だったらちゃんと打てよ』というひと睨みで蹴散らされる。
本人たちはいたって真面目なのだが、周りから見ると飼い主に叱られた大型犬が『きゅぅぅん…』と耳や尻尾を垂れている様子に見えるのだ。

「なんや宍戸、今日も鳳のしつけか?」
「は?」
「宍戸〜。カウンターの練習つきあってよー。」
「………これが終わったらな。」

次々に宍戸にかけられる声に、 『宍戸さんがとられる!?』と気が気ではない長太郎。
………もちろんそんなリアクションが楽しいので皆からかっているのだ。(酷い)

「よし!」
「はいっ!!」
「よし!」
「はいっっ!」

サーブ練習は続く。
『次やったら相手変える』の言葉に、神経質なほど宍戸の言葉を待ってから打つ長太郎だ。

「よし!」
「はいっっ!」
「よし!」
「………」


「……………犬やなぁ。」
「………だな。」
「ウス。」
「………いつ見ても。」

そして今日もそんな様子をしみじみと眺めるレギュラーたちであった。
平和な氷帝学園の日常風景である。

本日のスキルアップ:長太郎は『マテ』と『ヨシ』を覚えた。


日常風景的なものが書きたくなって……これかよという感じですが(^-^;)長太郎しつけられてます。頑張れ長太郎!ご褒美に宍戸さんをゲットする日も近いぞ!!……たぶん。


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