眠り姫へ、愛を込めて。



部活が終わっても、俺と宍戸さんの練習は終わらない。
最近は帰り道にある市営のテニスコートで、時間いっぱいまで練習するのが日課になっていた。
今日もそうやって自主練習をした後、いつものようにコート横のベンチに並んで腰掛ける。
部活の内容がいつもよりハードだったせいか、俺も宍戸さんもすぐに帰る気にはなれず、着替え終わってもまだたわいのない話をしたり、ぼーっとしたりしては座っていた。

「さて、そろそろ帰りますか?」

「眠ぃな。」

「え?」

言ったかと思うと宍戸さんはころっと横になり、俺の足の上に頭を乗せる。
『ひざまくら』の状態だ。

「宍戸さん……!?」

「動くな。せっかくこの角度寝心地がいーんだからな。」

顔を少し俺の方に向けて、見上げてくる。
………………もちろん俺が逆らえるわけがない。

「こんなとこで寝たら風引いちゃいますよ〜?」

「別に寝るわけじゃねぇよ。………ちょっと休むだけだ。」

そう言うと目を閉じてしまう。

幸せだ。とっっっっっても幸せだ。
あぁもぅこのまま明日までじっとしていたい……
でも……宍戸さんが風邪引いたら困るしなぁ。

「……起きて下さい、宍戸さん。」

「……………。」

本当に寝てしまっているのか、目を閉じているだけなのか。
穏やかに胸が上下している。
こんなふうに宍戸さんを見ていられる機会なんてこれから先あるんだろうか。
そう考えるとますます起こすのが勿体なくなってくる。

「宍戸さん………」

帽子をかぶっていたせいですっかり跳ね上がってしまった前髪をそっと撫で付けてみる。
宍戸さんはかすかに眉を動かしただけで、相変わらず寝ているように見えた。

「もう……。起きないと、悪戯しちゃいますよ?」

「…………。」

返事はない。

「いいんですか〜?」

ほんとにもう。悪戯、しちゃいますからね?


ちゅぅ。


わざと音をたてるようにキスをする。
宍戸さんがぱちっ、と目を開けた。

「お早うございます。」

「なっ……?」

覗き込む俺をしばらく凝視した後、口元を押さえながら起き上がる。

「おまえ今………何した?」

「目覚めの儀式を。」

特上の笑顔で答えてみる。

「はぁ!?」

「ほら、眠り姫だって王子様のキスで目覚めますし。やっぱり起こすならこれかなぁ…って思って。」

俺は眠り姫より宍戸さんの寝顔の方が可愛いと思うけどね。
もちろんそんなこと本人の前じゃ言えない。

「お前なぁ……」

あー……怒られるかなぁ、やっぱり………

「びっくりしただろーが!!ったく……。」

「へ…?」

「………んだよ。」

「いや……もっと怒られるかなぁと思ってたので………」

びっくりした………だけ?

「怒ってほしいのか?」

俺は全力で首を振った。
宍戸さんはふぅ、とため息をつくと立ち上がって歩き出す。

「帰るぞ。」

「え…あ!待って下さいよ〜〜!」

慌てて荷物を持って追いかける。
宍戸さんは振り返りもせずすたすたと歩き続ける。
少し前の俺なら、やっぱり怒ってるのかな、と不安になっただろう。
でも、何となくわかってきた。
振り向きはしないけど、俺が追い付くのを待ってくれてるんだって事。

少しは……期待してもいいのかな?

「大好きですよ、宍戸さん。」

後ろ姿に小さな声で呟く。

「あ?何か言ったか?」

「何でもないです♪」

きっと今の俺は傍から見て分かりやすすぎるほど上機嫌だろう。
追い付いて、宍戸さんの横に並ぶ。
こうやって歩調を合わせて、一緒に歩いていけること。
俺と同じように、宍戸さんがそれを幸せに感じてくれていたらいいな。

心からそう願った。



最初ははひざまくらだけのつもりで書き始めたのに、いつのまにやらちゅぅのおまけがついてきてました。やったね長太郎☆犬っぽいのも良いですがこういう積極的な長太郎も書いてて楽しいです。宍戸さんのリアクションとか。もっともっと甘くなるように頑張りたいです。。。甘々の神様降りて来ーいっ!(祈)


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