関東地方に大雪の注意報が出た。 朝玄関を出て目に入ったのは、滅多に見ないまっ白な道路。 この調子では朝練ができるかどうかもわからないが、とにかく行くしかない。 歩きにくいだろうと予想して、いつもより早めに家を出る。 …………あいつは来てるんだろうか。 「さすがに寒ぃな……。」 あいつ、とはテニス部の後輩、鳳長太郎のこと。 学年が違うにもかかわらず、近頃はなんだかんだと一緒にいることが多い。 極め付けは、部活の延長であるかのように『一緒に登下校』だ。 ………家の方向が違うのも向こうは全く気にならないらしい。 最初は家まで迎えに来ると言っていたので全力で拒否したら、しゅん、と目に見えてわかるほど落ち込んでしまったので、仕方なく 「………近くまで来て待ってるくらいなら許してやる。」 と言ってしまったのだ。 それから毎日、あいつは近くの交差点で俺を待っている。 どうしてここまでなつかれてしまったのか、未だに分からない。 それでも最近は、一緒にいることに違和感を覚えることもなくなってきた。 忍足に言わせれば 「えーやん別に。こいつはもうアレみたいなもんやて。ほらあの……ハチ公?」 だそうだ。 「忠犬……ってのもなぁ。」 表情の豊かさや、目が口ほどに物を言っている所とか、確かに大型犬っぽくはある。 ハチ公と言い切られるのも人間としてどうかと思ったりもするが。 「まーいいか。」 所詮他人事。少なくとも今の所、俺は迷惑だと思えてはいない。 積もっていく雪に重くなる傘を時折振りながら、交差点までのわずか数分。 せっかく一人の時間なのに、考えるのは長太郎のことばかりというのは何故だろう。 角を曲がると、もう交差点が見えてくる。 そして俺の『忠犬』は、飽きもせず毎朝にこにこと俺を待っている。 文字どおり、雨の日も風の日も、だ。 こんな雪の日にも。 連絡もせず出たのに、交差点にはちゃんとコート姿の長太郎が立っていた。 「あ、宍戸さん!お早うございます。」 その長身にコートと長めのマフラーがよく似合っていて、俺よりも年下のくせに、と少し複雑な気分になる。 「………よぉ。早いな。」 「宍戸さんこそ……ってそれよりも雪!雪ですよ!!」 「見りゃーわかるだろ。」 「だってこんなに積もるなんて珍しいじゃないですか〜!なんだかワクワクしますよねっ。」 足下の雪を蹴り上げてみたり、傘をたたんで降ってくる雪を見上げてみたり。 目を輝かせてはしゃいでいる。 ………本当に犬みてーだな。 楽しそうに雪道を歩く長太郎を横目に見ながら、ふぅ、と白い息を吐いては眺めていた。 最初はあれだけ戸惑ったのに、今はこの時間を心地よいと思い始めている。 少しだけ不安になるのは……他人と一緒にいることに慣れないようにして今までやってきた俺にとって、こいつと居る時間に慣れてしまったら……?その後の自分が予想ができないこと。 それでも、もう少しだけ。 この「忠犬みたいな」後輩とじゃれあっている時間を、楽しんでいたいと思った。 |
まだまだ生温い関係の2人です。次は下校編かな…。 じゃれてる感じの2人を書くのもとても楽しいです。 この調子で甘々に向かって突き進んでいってもらいましょう。 |