どこか遠くに行ってしまいたいと思うことはあった。 全て投げ出して、逃げてしまえたら。 そのときは…………この想いも消えるのだろうか。 消えれば、楽になるのだろうか。 胸の痛みは、切なさや苦しさは、なくなるのだろうか。 「留学ぅ!!?」 跡部の言葉に忍足はしばらく言葉が出ないようだった。 「な……それ……決まったん?どこへ??期間は??」 「………落ち着け。」 「落ち着けるか。とにかく説明してや……!」 「ったく………」 フランスの姉妹校へ短期留学。 氷帝学園においては特別珍しいことではない。3年になって色々と進学の問題がでてくる前に留学を経験しておくことはむしろ推奨されている。 跡部以外にも留学を希望する者は多く、同じ時期に他の姉妹校に留学する生徒もいるのだ。 「向こうでは授業期間が違うからな。こっちでは春休みだから授業は問題ない。」 「せやかて……テニスは?部活は?」 「あぁ?寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ。向こうでテニスするのが目的に決まってるだろうが。」 「あ……そ…そうやな………」 目の前で「はぁ……」と大きなため息をつかれる。 「たった一月だ。うちの部は俺様が一月居ないだけでぐらつくような部だとは思っていなかったがな。………違うか?」 「違わんけど……」 「何だ?」 「一月かぁ………俺が寂しゅうて死んでしまうわ。」 「…………半年にすれば良かったな。」 跡部が忍足と付き合い始めてもう3か月になる。 最初は自分の中にある想いを否定し続けていたが、やがて忍足本人によってあっさりと肯定されてしまい、現在の関係に至ったのだが。 跡部の中の違和感がなくなったわけではなかった。 それはいくら愛していると言われようが、体を重ねようが、消えることなく。 むしろ、付き合うにつれてその苦しさが増していくような気がしていた。 逃げ出すために留学するんじゃない。 それは十分わかっていても、離れた所からより客観的に自分を見つめ直したいと言う想いが、なかったとは言い切れない。 何かを変えたいと思っていた。それが何かすらわからずに。 『跡部。もーさっきから何回呼んだと思てんねん??』 『うるせぇな。聞こえてるって言ってるだろうが。』 『明日暇やろ?どっか行かへん?』 『テニス以外はお断りだ。』 『つれないな〜〜〜泣けてくるわ。なぁデートしよ?』 『…………………』 『くすん……そないにつれないと浮気するで?なぁ岳人。』 『はぁ?俺を巻き込むなよな!』 『もぅ。皆して虐めるーーー(涙)』 『日誌書いてるときくらい黙ってろ。』 『なら一緒に帰ろうや。話はその時でええわ。』 『……………。』 『跡部?』 目を開けると、まだ見なれない天井が広がっていた。 枕元の時計ではようやく6時になったところ。 カーテンからは朝日が透けて見える。 「夢……か。」 ベッドから起き上がる。 頭の中はさっき見た夢の名残りでいっぱいだ。 いつもなら、学校に行けば見飽きるほどありきたりな光景なのに。 ……………今はそれが、夢であることが悲しくて仕方なかった。 会いたい。逢いたい。今すぐに。 「……ここまでとは思わなかったな………」 気付けば忍足のことばかり考えている自分に、苦笑する。 時差は約8時間。 向こうではようやく眠りについた頃だろう。電話をかけるわけにもいかない。 「忍足……」 あの笑顔が、自分のいない所で他の誰かに向けられている。 それを考える度に、いらだちと寂しさが心を覆っていくようだ。 「……侑士………」 普段は呼ばない名前を呼んでみる。 それが相手に届かないことが、ひどく悲しく思えた。 |
うちの忍跡は現在鳳宍カップルよりもラブラブのようです……(^-^;)分けてやってほしいですね。20.5巻によると跡部様ドイツ語が堪能だとか。系統が同じなのできっとフランス語でのコミュニケーションもばっちりなのでは。 |